Doctor’s コラム
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2024.02.22
  • 花粉症・アレルギー性鼻炎

重症スギ花粉症治療 『ゾレア®』

 

はじめに

 

2020年より、従来の治療で効果が十分にみられなかった重症・最重症のスギ花粉症に対して、抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®)を皮下注射する治療(保険適応)を行うことができるようになりました。
スギ花粉症による鼻炎症状が内服薬や点鼻薬を使用しても治まらず、1日中花粉症で悩んでいる方、また内服薬による眠気などの副作用が強く、より強力な薬剤への変更や増量ができない方にお勧めの治療です。

毎年、スギ花粉症の症状が重く、症状がコントロールできずに悩まされている方に投与することで、症状の改善が期待できる可能性があります。これまでなかなかスギ花粉症の治療がうまくいかず、どうにか症状をコントロールしたい方は、血液検査などの各種検査を行って、ゾレア®による治療が可能かどうか検討しましょう。

 

 

花粉症のメカニズムと従来の治療法

 

花粉症のメカニズム

 

花粉が鼻粘膜に付着し、花粉の持つたんぱく質がアレルゲンとして認識されると、免疫細胞の一種である「Bリンパ球」が刺激され、「IgE」という抗体が産生されます。このIgEは、「マスト細胞」という免疫細胞の表面に結合します。

その後、再び花粉が体内に侵入し、IgEとマスト細胞の表面で結合すると、それが引き金となり、マスト細胞が活性化され、ヒスタミンロイコトリエンといったアレルギーを起こす化学伝達物質が大量に放出されてしまいます。この化学伝達物質が神経や分泌物を出す鼻腺・血管などにある受容体と結合することで、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状を引き起こします。

 

従来の治療法

 

これまでの花粉症の治療法の主流は、マスト細胞から放出されるヒスタミンをブロックする「抗ヒスタミン薬」の服用です。薬剤の服用により花粉症の症状は抑えられますが、副作用として強い眠気を伴うことはよく知られています。近年、眠気の少ない薬剤も開発され、一定の効果をあげています。しかし、アレルギー反応によって体内に放出されるのはヒスタミンだけではありません。他にも多くの化学伝達物質が関わっていると考えられており、花粉症の方の中には抗ヒスタミン薬だけでは十分な効果が期待できないことがあります。

抗ヒスタミン薬以外の薬剤では、ヒスタミンと同様にアレルギー反応を引き起こす化学伝達物質である「ロイコトリエン」に対する抗ロイコトリエン薬、ステロイド薬(内服薬、点鼻薬)などがあります。その他に、「舌下免疫療法」やアレルギー反応を伝える知覚神経の一部を手術によって切除する「後鼻神経切除術」などもあります。

舌下免疫療法は、舌の下からスギ花粉エキスを含んだ薬剤を継続的に吸収させることで、身体をアレルゲンに慣らしていく治療で、花粉症を完治できる可能性があると期待されていますが、3~5年と長期間の継続治療が必要です。

 

 

抗IgE抗体治療薬 ゾレアについて

 

抗IgE抗体治療薬 ゾレア 

 

 

上記のような従来の治療法と抗IgE抗体治療薬 ゾレアの違いは、ゾレアが一般の医薬品のように科学的に合成されたものではなく、生物から産生されるタンパク質などの物質を応用して作られた医薬品であることです。「生物学的製剤」と呼ばれます。

ゾレアには花粉が体内に侵入するによって産生されたIgE抗体と結合し、IgE抗体がマスト細胞と結合するのを防ぐ働きがあります。つまり、ゾレアを投与することによって、IgE抗体はマスト細胞と結合できなくなるため、花粉が侵入しても化学伝達物質であるヒスタミンやロイコトリエンなどが放出されず、花粉症の症状が起こらなくなるという仕組みです。

 

ゾレアの副作用

 

ゾレアを投与する際に見られる副作用として主なものに、注射した部位が赤くなったり、腫れたりするものです。また場合によっては、眠気やめまい、疲労感を感じたりすることがあります。そのため、注射直後の車の運転や機械の操作などはできる限り控えるようにしてください。

また、まれにアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。

  • アナフィラキシーが疑われる症状

    • 全身のかゆみ
    • 蕁麻疹
    • 気管支のけいれん
    • くちびる、舌、のどの奥の腫れ
    • 呼吸困難
    • たちくらみ
    • 血圧低下
    • 失神
  • ゾレア投与後の注意に関しては、医師や看護師の指導に従い、上記のような症状が出た場合はすぐにお知らせください。
  • ※ゾレアが働きを抑制するIgE抗体には、寄生虫感染に対する防御機能を持っています。そのため、治療中に寄生虫感染のリスクが高い地域へ旅行する場合には注意が必要です。

 

ゾレア投与の対象となる条件

 

ゾレアは花粉症であれば誰でも受けられるというような治療ではありません。ゾレアを投与するためには、ガイドライン上、「重症」・「最重症」のスギ花粉症であり、まずは既存の治療を行った上で効果が不十分であることが条件となります。

ゾレアを投与するための条件
①重症・最重症である
②スギ花粉に陽性である
③従来の治療法で効果が見られない
④12歳以上である
①重症・最重症である

ゾレア投与の適応となるのは、スギ花粉症のうち、重症、または最重症の方のみです。

花粉症の重症度は、1日のくしゃみ・鼻をかむ回数、鼻づまりの程度で分類されます。詳細を下の表に示します。

つまり、ゾレアが投与できるのは、くしゃみまたは鼻をかむ回数が11回以上」、もしくは鼻づまりの程度が非常に強く、口呼吸が1日のうちかなりの時間ある」という重症の方、またはくしゃみまたは鼻をかむ回数が21回以上」、もしくは1日中、鼻が完全につまっている」という最重症の方となります。
②スギ花粉に陽性である
ゾレアはスギ花粉症以外のアレルギー性鼻炎・花粉症には適応が認められていません。そのため、ゾレアを投与する前には、必ずアレルギー検査を行い、スギ花粉が陽性かどうかを確認する必要があります。
アレルギー検査は指先から血液を採取するドロップスクリーンではなく、一般の静脈採血で行い、アレルゲンを特定する「特異的IgE検査」と、アレルギーの傾向を確認するための「総IgE検査」の両方を行います。
その上でゾレアを投与するための絶対条件は、スギ花粉が陽性(class 3以上)、かつ血液中の総IgE濃度が30~1,500U/mlとなります。
③従来の治療法で効果が見られない

アレルギー検査でスギ花粉が陽性(class 3以上)、および血液中の総IgE濃度が30~1,500U/mlであったとしても、すぐにゾレアを投与できるわけではありません。

症状に合わせたお薬を1週間以上使用しても、症状が改善されない場合に初めてゾレア皮下注射の適応と判断します。よって、まずは花粉症の症状を緩和するために、抗ヒスタミン薬の内服や点鼻ステロイドなどの薬物療法を1週間以上行い、それでもくしゃみや鼻水、鼻づまりの程度がガイドラインの重症度分類において、重症・最重症であった場合に『既存治療で効果不十分な季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)』と判断し、ゾレア投与の適応となります。

④12歳以上である
これまで挙げたもの以外に、ゾレア投与には年齢制限、および体重制限があります。具体的には、12歳以上」、かつ「体重が20〜150kgの範囲内」でなければ、ゾレアは投与できません。
その他
妊娠中の方や授乳中の方は直接医師にご相談ください。

 

ゾレア投与までのスケジュール

 

 

ゾレアは1回だけ投与すればいいわけではなく、スギ花粉が飛散する期間中、定期的に注射を打つ必要があります。まず、アレルギー検査を行い、前述した条件を満たすかどうかを判断する必要があります。ゾレア投与の適応ありと判断した場合は、血液中の総IgE濃度と体重から、1.投与量2.投与間隔3.自己負担額を決定します。

 

※ゾレアはスギ花粉飛散中に、限られた方に投与する薬剤です。そのため、クリニックレベルでは院内に常備しているわけではありません。事前に受診いただき、治療スケジュールを立てる必要があります。

 

 

初回受診では、これまでのスギ花粉症の症状が「重症」、または「最重症」かどうかを確認します。また、過去にアレルギー検査を行っていない場合、一般の静脈採血によるアレルギー検査を行います。さらに、他の病気の可能性がないかを確認するため、ファイバースコープ検査やCT検査を行う場合があります。その後、既存の薬物療法(内服薬や点鼻薬)を1週間以上継続します。

ゾレアを投与するにあたり、必ず1週間以上の既存治療が必要です。

 

 

初回受診から1週間以降に再度ご来院いただき、ガイドラインに沿って、既存治療の効果を判定します。治療効果が不十分であること、およびアレルギー検査でスギ花粉がclass 3以上であることが確認できれば、適応ありと判断します。その上で、投与量、投与間隔を決定間隔、自己負担額が決まります(アレルギー検査を2回目の受診の際に行った場合は、3回目で決定することになります)。

 

 

2回目の受診で決定した投与量に沿って、ゾレアを投与します。初回投与時は、アナフィラキシーショックが起こる可能性があるため、注射の後、一定時間は院内で待機していただきます。事前に行った薬物療法はそのまま継続していただきます。

 

 

スギ花粉が飛散する期間に応じて、2週間、または4週間ごとにゾレアを投与します。なお、ゾレアには即効性はなく、定期的に投与することで徐々に症状が改善していきます。そのため、花粉症の症状を抑えるために服用している他の薬を自己判断で減量や中止をしないようにしましょう。

 

場合によっては2回目の受診で初回投与が可能な場合があります

 

ゾレア投与にかかる費用

 

ゾレアの投与量、および投与間隔は、血液中の総IgE濃度と体重に基づき決定します。投与量により薬剤にかかる費用も異なります。

ゾレアは保険適用となります。目安となる自己負担額は薬剤費のみで以下の通りです。

  • 3割負担の場合…4,444円~69,953円
  • 2割負担の場合…2,962円~46,635円
  • 1割負担の場合…1,481円~23,318円

上記以外に、受診料、検査料、処方箋料などがかかります。

 

★薬剤費の詳細こちら☞☞☞ゾレア皮下注シリンジで治療した場合の費用(薬剤費について)

 

 

☆以下のような方にはゾレアがおススメです☆
  • ✔スギ花粉飛散時期に花粉症の症状が強く、従来の治療では効果がなく、毎年つらい思いをされている方
  • ✔受験生などで抗ヒスタミン薬を使用しずらい方
  • ✔日常的に運転が必要など職種により抗ヒスタミン薬が使用しずらい方

※以下のような場合には、投与ができない場合があります※

 

✔スギ特異的IgEがclass 3以上、かつ重症・最重症のスギ花粉症だが、血液中の総IgE濃度が30U/ml未満、あるいは1,500U/ml以上の場合

✔ゾレアの必要投与量が投与限界量を超えてしまう場合(ゾレアの投与量は体重と総IgE濃度で決定)

 

 

まとめ

 

春の息吹が心地よい季節が到来すると同時に、私たちの鼻と目を悩ませる花粉症のシーズンも幕を開けます。特に重症の花粉症の方にとっては、毎年のこの時期は戦いの始まりを意味します。しかし、ゾレアが保険適用されたことにより、新たな治療の選択肢が増えました。

ゾレアが発売されて、すでに3シーズンがすぎましたが、当院で投与を行った患者さまのほぼ全員に高い効果を認めており、注射を希望される方も少なくありません。また、副作用もほとんど認めていません。

  • ゾレアは重症、または最重症のスギ花粉症のうち、既存治療では効果不十分の方に投与可能であり、既存治療では得られないほどの高い効果がある治療薬です。
  • 毎年、スギ花粉症でお悩みの方は、ぜひ当院へお気軽にご相談ください
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